好きなカレー屋さんは他にいくつもあるのですが、それはまたの機会にして、
1発目はもう閉店しているこのお店にします。
「何のために紹介するんだよ」という声が聞こえてきそうですが、
答えはもちろん秘密です。
おいしいのですがとても甘口のカレーで、しかもごはんの量がむちゃくちゃ多いので、
どうやってもごはんが余るお店でした。
で、『もう残そうかな』と客が思うか思わないかくらいの瞬間に、
お店のお姉さんが魔法の呪文を唱えます。
「カレーおつぎしましょう。」
そしてアンドロイドっぽいオーバーアクションで、
ルーをおたまですくって一旦頭の高さまで持ち上げてから、
カウンター越しにダーっとかけてきます。
「おつぎしますか」ではなく「おつぎしましょう」であるところがポイントです。
半強制です。
「やめてー」と思っても、それを口にすることはできません。
このお姉さんは、職人気質のちょっと気難しいロボット人で、
『この人が作るルールに従わないと命はない』
と無条件で全哺乳動物に感じさせる何かを持つロボット人だったからです。
ふと周りを見ると、これが店内のいたる所で行われているわけです。
店内に響き渡る
「カレーおつぎしましょう」
「カレーおつぎしましょう」
「カレーおつぎしましょう」
の声。
1度、ルーの2回目の継ぎ足しを頼んで
お姉さんに「1回だけです!」と注意される学生を見ました。
彼がその後どうなったのかは誰も知りません。
お店が閉店するときには、
「お姉さんの右手故障」
「お姉さんをオーバーホールに出すため一時閉店」
といったチラシがあちこちで配られていました。
あの不思議空間、今でも懐かしく思い出します。
また行きたいのですが、もうこの地球上のどこにも存在していません。残念です。